狂愛メランコリー


「それと、ごめんね。今日は一緒にお昼食べられなさそう」

 意外だった。
 “前回”のような小細工をするつもりはないみたいだ。

「そう、なんだ。……分かった」

 どうしてなんだろう。

 わたしを殺す彼の様子を見ていたら、否が応でも阻んできそうなものなのに。
 常に監視し続けてもおかしくないのに。

「放課後は一緒に帰ろう」

 理人は柔らかく笑むと、そっとわたしの手を取った。
 今日はどうして、そんなに近いのだろう。

 余裕の表れか、それとも、いまさら罪悪感でも感じているのかな。

「……うん」

 何とか笑って見せたけれど、少しぎこちなくなったかもしれない。

 理人に対する不安もそうだけれど、何より輪を作っている女の子たちの視線が突き刺さっていたたまれない。

 ────理人なら、そのことに気づいていてもおかしくないのに。
 それがわたしの孤立を助長させてしまっているということにも。

「…………」

 やんわりと手を引っ込める。
 曖昧な笑顔を残し、自分の教室に戻った。



 特に何事もなく昼休みを迎える。

 今回の理人は、休み時間にも毎度会いにくるようなことはなかった。

 それならそれで、いたずらに神経をすり減らさずに済むからいいのだけれど、逆に少し気味が悪い。

 釈然(しゃくぜん)としない気持ちを抱えながら階段を上っていった。
 いつものところで向坂くんが待ってくれている。

(理人の罠じゃないよね……?)

 あまりにもスムーズで、あまりにもわたしにとって都合がいい。
 こんなにも簡単に向坂くんとコンタクトを取れるなんて。

 少し間を空けて彼の隣に腰を下ろす。

「浮かない顔してんな。何かあったか?」

「ううん、むしろ何もないっていうか」

 だからこそ、余計に不気味で胸騒ぎがする。

「……理人、どこまで覚えてるんだろう」

 つい、そんな疑問が口をついてこぼれた。

「“前回”の記憶はあるんだろ、今回も」

「そうだよね」

 だからこそ、あえて“前回”とちがう行動を取っていることは分かる。

 だけど、それなら────。

「理人にとっても“前回”の結末は不本意だった、ってことなのかな?」