「つか、殺されんのは放課後なんじゃなかったのかよ。日付は決まってても、時間は関係ねぇってことか?」

 向坂くんがぼやいた。

 確かにそうだ。

 記憶の通りなら、殺されたのは確かに放課後だったのに“前回”は朝の時点で死んでしまった。

「色々、変化してるよね。記憶もそうだし」

 どういう法則があるのだろう。

 どうして、今回は私にも向坂くんにも記憶があるのだろう。

「俺も殺されたから覚えてんのか?」

「それなら……私の辻褄が合わない」

 私は毎回殺されているが、記憶は保持しているときと失うときがある。

 記憶を維持していられた“前回”と“前々回”の共通点は何だろう?

 “前回”の私と向坂くんの共通点は何だろう?

「……お前さ、今回どうすんの」

「え?」

「三澄と、どう接すんの?」

 彼は窺うように私の目を覗き込む。

「…………」

 “前回”と同じなら、理人は私に記憶があることをまだ知らないはずだ。

 同じ徹は踏まないようにしないと。

 それなら、無難に従順でいた方がいいし、なるべく向坂くんとも接触しない方がいいのだろう。

 けれど“前回”だって似たような心構えだった。それでも殺された。

 私のことを分かり切っている理人には、必ず尻尾を掴まれる。

 私には欺けない。
 ────だとしても。

「……うまくやる。何とか」

 出来るだけいつも通りでいよう。

 ただ、殺される覚悟ははじめからしておこう。

 それはもう前提に、開き直って考えるべきだ。

 ……思い出そう。考えるんだ。

 理人と何があったのか。理人という人物像も、私たちの関係や過去も。

 どうして、こんなことになったのか。

 改めて整理して、このループについても情報を集める。

 今回は“殺されないこと”より、そちらに注力しよう。

 怯えてばかりじゃ、何も掴めないまま3日間に閉じ込められるだけ。

 このままいたら、きっと毎回理人に殺される結末を迎えるだけ。

(大丈夫。……私は死なない)

 唇の端を結び、自分を奮い立たせる。

 諦めたくない。私は、私の命を。

「何か────」

 おもむろに向坂くんが口を開く。

 まじまじと私を眺め、意外そうな表情を浮かべる。

「……いや、何でもない」

「?」

 顔を背けた彼が、不意に身を強張らせた。

 その視線を追い、私も一瞬呼吸を忘れる。

「理人……」

 校門から昇降口へと向かってくる彼の姿が目に入ったのだ。

 幸い、私や向坂くんには気付いていない。

「────花宮」