狂愛メランコリー

     ◆



【ごめん、理人!】

【今日までの課題忘れてたから先行ってるね】

 そんな菜乃からのメッセージを受け、スマホを伏せた。

 嫌な予感がする。
 “今回”の彼女はどこか変だ。昨日といい、今日といい。

 僕を見つめる眼差しに、何だか怯えているような気配があった。

 “理人”と呼ぶかわいらしい声も、どことなく緊張したように硬かった。

「もしかして……」

 以前にも一度だけ、こんなことがあった。

 彼女は忘れているだろうけれど、あからさまに僕を避け続けた3日間があった。

 菜乃は、()()にこう言った。

 ────“もう、殺されるのは嫌”。

 そのときの彼女には記憶があったのだ。
 僕に殺された、という記憶が。

(まさか、今回もそうなのか?)

 以前より避け方がやんわりとしているから、ほんの違和感程度しか抱かなかった。

 誰かの入れ知恵だろうか。
 誰か、なんてあいつしかいないけれど。

「向坂……」

 昨日、出会ってしまったのだろうか。
 昼休みのあの一瞬、目を離しただけで?

 ふたりを引き合わせないよう、限界まで菜乃を見張っていたのに。

(……ちがうか)

 彼女に記憶があるのなら、向坂のことを既に知っていたはずだ。

 “前回”の菜乃は、彼に恋をした。

 僕を頼れなくなったなら、真っ先に助けを求める相手だろう。

「ああ、また失敗か……」

 ネクタイを締めながら自嘲するように笑う。
 どうして、うまくいかないんだろう。

「……まあ、いいや」

 歯車が狂ったら、ぜんぶ壊してしまえばいい。
 何度だってやり直せばいいんだ。

 理想通りの世界で、菜乃が僕だけを見てくれるまで。



     ◇



 玄関のドアを開けたわたしは息をのんだ。

「おはよう」

 門前に理人がいたのだ。

「何で……」

「今日は少し早くに目が覚めたんだ。だから、ちょうどよかった」

 彼を避けるために嘘のメッセージを送ったのに、墓穴(ぼけつ)を掘ってしまったのだろうか。

 いや、そうじゃない。
 絶対、わざとだ。

 朝からわたしを監視するために、強引に時間を合わせたんだ。

 それ以前の“確認”かもしれない。
 わたしが嘘をついていないかどうか。

 理人を出し抜いて、向坂くんに会いにいったりしないかどうか。