いちいち狼狽えていては色々と露呈してしまうから、必死で演技をしているのだろうか。

 あるいはもう、慣れてしまったのだろうか。

 どちらにしても、そうも平気でいられるものなのだろうか。

「……菜乃? ぼんやりしてるけど大丈夫?」

「あ、うん」

 誤魔化すように笑う。

 今日、何度目のぎこちない笑顔だろう。

「でも、ごめん。今日は真っ直ぐ帰らない?」

「僕は全然いいけど。じゃあ、寄り道は明日にしようか。菜乃も疲れてるみたいだし」

 ひっそりと小さく息をつく。

 何とか今日は上手く免れた。明日も、行かない理由を作らなきゃ。

 向坂くんの言っていたように、ループや理人のことを探りたいのは山々で、それには理人と話すのが近道なのだと思う。

 でも、結末を知ってからは萎縮してしまい、上手く接せられる自信がなくなった。

 今だって、本当は、逃げ出してしまいたい。

 ……それでも。

「うん、ありがとう」

 理人に怪しまれないようにしなければいけない。

 彼がこういう態度を取るということは、私に記憶があることを知らないはずだから。

 悟られないようにした方がいい。……恐らくは。

「そっちのクラスはどう?」

「だいぶ慣れたよ」

 話題を変えた彼の問いに答える。

「友だち出来た?」

「うーん……。私には理人しかいないから」

 慎重に言葉を選んだ。

 “友だち”というワードに“前回”のことが過ぎったのだ。

『知らなかった。菜乃にそんな子がいたんだ?』

 あのとき、理人はかなり過剰な反応を見せていた。

『よかった。菜乃に悪い虫がついたら心配だからね』

 私に友だちがいる、ということにそれほど驚いたのか、今思えば言葉の端々に出ていたような気がする。

 ショックや拒絶、苛立ちのようなものが。

 ────もしかしたら彼は、私にいつまでも執着していて欲しいのかもしれない。

 自意識過剰な勘違いでなければ、そうなんだと思う。

 これまではずっと、自分が理人のお荷物になっていると思っていた。

 でも、そうじゃなかったら?

 それが、理人の本意だったら?

 考えもしなかったけれど、気付かない方が幸せだったかもしれない。

 何も知らずにいた方が、理人の甘さに素直に溺れていられた。

 それなら、私も殺されずに済んだのかな……?

「そっか。でも、落ち込まなくていいよ。菜乃には僕がいれば充分なんだから」

 満足そうに彼は微笑む。

 私の返答は正解だったのだろう。

 撫でられた頭の先から凍りついていくように、背筋がぞくりと冷えた。