狂愛メランコリー


「ストーカーだって認めるんだ?」

「ちげぇよ」

「じゃあ誤解されるような行動は控えた方がいいんじゃないかな。これ以上エスカレートするようなら、本当に警察に通報する」

 さっと向坂くんの顔色が変わった。

 とはいえ、普通であれば青ざめるのだろうけれど、彼は逆だった。(いきどお)ったのだ。

「ふざけんな。どの口が言ってんだよ!」

「どうもこうも、きみの方が圧倒的に()が悪いでしょ」

 理人の余裕は最後まで崩れることなく、向坂くんは気圧(けお)されたように口をつぐんだ。

 やがて険しいほど真剣なその瞳がわたしを捉える。

「俺は諦めねぇからな。花宮がどう思おうと」



 放課後になると、向坂くんを避けるように急いで学校を出た。

 けれど、どうせ家は知られている。道を変えても無駄だ。

 だから、いまは逆にゆっくり歩いていた。
 なるべく長く理人といられるように。

(ひとりになりたくない……)

 向坂くんの鋭い眼差しも、掴まれた手首の感触も、片時も離れなくてわたしを(さいな)む。

 指先からちぎれて、ばらばらになってしまいそうだ。

 波立った心はさざめいたまま、一向に落ち着かない。

「あ、そういえば知ってる? 駅前に新しいお店ができてたよ」

「そうなんだ……」

「ケーキ屋だったかな。菜乃が好きそうな感じ。今度寄ってみようか」

「……うん」

 なるべく普段通りの話題を振ってくれているのだと分かっているのに、わたしには余裕がなかった。

 理人の気遣いを無にしてしまうような生返事しかできない。

「菜乃」

 ふいに理人が足を止める。

「また彼のこと考えてるの?」

「だって────」

 ほかごとを考えようとすればするほど、頭の中を侵食してくるのだ。

 向坂くんの言葉や態度は、明らかに普通ではないから。

 一旦口をつぐんだわたしは、そっとうつむく。

「……予知夢って、あると思う?」