街につくと、それこそ見たことの無い光景が広がっていた。

獣の姿をしたあやかし、人間のような容姿をしたあやかし。

色んなあやかしが立ち並ぶ露店の間を行き交っていた。


「手を離すな。はぐれるからな」


少女の手を引きながらあやかしの行き交う街を歩いていく。

見たこともない大きな塊のお肉や、真っ赤なリンゴを飴細工で固めたお菓子、白くてふわふわした綿のようなものと、色とりどりの不思議な食べ物がたくさんあった。

少女は人の集まる場所に縁なく生きてきた。

少女の生活は単純だった。

山へ山菜を取りに出かけ、そのついでに薪になる枝を拾う。

収穫したものを村まで降りて換金し、そのお金で食材等を買って生きてきた。

関わりがあったのは養父だけで、小さな世界で生きてきた少女にとって養父に捨てられたことはショックなことであった。

それを思い出し、涙が出そうになるも振り払い、男と繋がった手を握り返す。

男の手が一瞬だけ強ばったのを感じた。


「おや、貴方様みたいな方がどうして街に?」


知らぬ声がしたのでそちらに顔を向けると、トカゲと人間を混ぜたような容姿をしたあやかしが男に声をかけていた。

男は冷たい目をしてあやかしを見下す。


「私がいてはおかしいか?」

「い、いえ! 貴方様のような高貴なあやかしが下級のあやかしの集まる街に来られたのを不思議に思うただけです! では!」


それだけ言うとあやかしは逃げるように後退り、離れていった。

だが離れる際に少女とぶつかり、少女の顔を隠していたお面が外れ、地面に落ちていく。

それをきっかけに、少女たちの周りには一定の空間が出来ていった。

離れたところから皆が男と少女を交互に見比べていた。


「なにあれ、人間?」

「人間だ」

「あのお方が人間を連れている」

「人間は喰らう必要がある」


ザワザワとした様子に少女は不安になり、地面に落ちたお面を拾うと再び装着する。

だがすでに手遅れであった。

男はため息をつくと一度空を見上げ、そして顔をおろす。

蒼玉の瞳が妖しく輝き、辺りにいるあやかしたちを一瞥していった。