「ずいぶんと長湯だったようだが」


男は手招きをし、少女を呼び寄せる。

少女は俯きながら男の傍へ歩み寄り、唇を噛み締めて男から目を逸らした。

それが男には気に食わなかったようで、男は少女の細い手首を引っ張ると、地面に押し倒した。


「何があった」

「別に……何も」

「あの女にでも会ったか」


図星をつかれ、少女は黙り込む。

男は大きくため息をつき、一瞬考え込んだあと、手のひらから白い光を浮かび上がらせた。

その光は男が軽く息を吹きかけると大気中に溶け込むようにして消えた。

ゆっくりと降ろされる手に少女は目を見開く。

顔のすぐ横に置かれた手が少女の頬を包み込んだ。


「明日まで待て」

「……明日?」


その言葉に男はハッキリと頷く。

少女は両手で頬に置かれた男の手を包み込むと、寄せるように頬擦りをした。


「……不安なのです」

「不安……か。それも全て明日には消えよう」

「もし消えたならば私はっ……私は!」


言葉は口付けに重なってしまう。

口付けは深くなっていき、それに応えるように少女は舌を合わせる。

温かくねっとりとした舌に舌を舐められると快感が背を駆け巡る。

少女が息を乱して呼吸が出来るようになったときには、すでに身体の力が抜け、男の身体に身を預けていた。

男の腕に巻きついていた黒い染みが薄くなっていく。

憎しみを吸ってばかりで邪気に満ちていた男が、少しずつ穏やかさを取り戻していく感覚を味わっていた。



「約束する。お前は私の傍にいればよい」

「……っはい」


そのまま二人は抱き合いながら眠りにつく。

行灯の明かりが消え、部屋に安息の暗闇をもたらしたのは数刻のことであった。