「……また贄が来たか」

「えっ……?」

「……そなたも来い。確認が必要だ」

「きゃっ!? あ、あの!」


男は少女の手を引くと大股で母屋の方へと向かっていく。

少女は慌てて立ち上がるとあまり広がらない小さな足を必死に小走りさせ、男についていく。

母屋へとたどり着くと、男は玄関を勢いよく開く。

太陽の光が差し込み、少女は目を細めて前を見る。

馴染み出した目には、ぼんやりと人影が映り、徐々に輪郭をハッキリとさせていった。

美しい白無垢をまとい、唇を赤く染めさせた美しい女性。

影を作り出すほど長いまつ毛に、艶っぽい大きな目。

まるで人形のように美しい女性に少女は目を見開いた。


「……お前はなんだ」

「お初にお目にかかります。私は椿と申します。土地神様である貴方様への捧げ物としてここへ参りました」

「……よく生きてこれたものだ。で、すでに贄は来ているが。なぜお前が送られてきた?」

「不良品を贄としたためか、村は不作となり、存続の危機に瀕しております。そこで私が新たな贄として参ることとなりました」


不良品。


その言葉が少女の心に突き刺さった。

少女は名もない、親無き子だ。

少女が贄に出されたものの、村は凶作で恵まれない状態となっていた。

男は土地神ではない。

そうとはわかっていても、少女には自分が役立たずであり、なんの意味をももたらさなかったことを思うと悲しい気持ちでいっぱいになるのであった。