不満げに首を捻ったら、聖に腕を掴まれて立たされた。
「細かいことはいいから行くぞ」
「でも祖母の夕食を作らなきゃ」
孝枝は家事が得意のため、食事の心配はなにひとつない。単なる言い訳だ。
「それなら心配するな。さっきキミのおばあ様に『七緒さんとお食事をしてもよろしいでしょうか』と断りを入れてある」
「え? 祖母に?」
なんて素早い根回しだろうか。しかも孝枝へのセリフの部分だけ、妙に丁寧な口調で再現してみせる。
「祖母はなんて?」
「ごゆっくりどうぞとおっしゃっていたよ。なんなら朝までとね」
「祖母は朝までいいなんて言いません」
きっぱり否定して返す。
恋人を作らせようとお見合いは画策したが、朝帰りまで推奨するはずはない。中学生のときから母親代わりに育ててくれたのだから、娘同然の七緒には清らかな身でいてほしいと願っているはずだ。



