「あります」
『じゃ、そこで待っててくれ』
店の名前を伝え、通話を切る。七緒はスマートフォンをバッグに戻し、交差点を渡ってコーヒーショップへ向かった。
(そういえば唯斗くんとも、カフェ巡りをしたよね……)
ふとそんな思い出が蘇って感傷的になる。
休日になると雑誌やテレビで話題になった店には少し遠くても足を運び、写真を撮ってお互いに送り合ったものだ。甘いものが苦手な唯斗は『七緒はほんっとおいしそうに食べるよな』とスイーツをペロリと平らげる七緒をいつもニコニコ眺めていた。
その時点ですでに恵麻の存在が心の中にあったなんて、今でも信じられない。
アイスコーヒーを注文し、窓際のカウンターへ腰を落ち着ける。ついさっき買った本を取り出して開いた。
それは世界各国の絶景を撮影した写真集である。本屋でなんとはなしに手に取り、深く考えもせずに気づけば購入していた。
トルコのカッパドキア、ウクライナの愛のトンネル、ギリシャのサントリーニ島など、人生のうちに一度は訪れたいスポットが、簡単な説明と美しい写真とともに掲載されている。



