敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~


元カノの七緒にそんなものを渡せる彼女の神経がわからず、封筒を受け取った状態のまま腕が微かに震える。

恵麻は、唯斗は完全に自分のモノだと七緒に見せつけたいのだろう。七緒の真似をして追いかける一方だったが、自分のほうが勝っていると知らしめたくて。


「七緒、悪い。大丈夫だから」


唯斗が封筒を取り上げようとしたが、七緒はそれを拒否した。


「わかった。行かせてもらうね」


とびきりの笑顔は自分を守る最大の防御。恵麻に自分はへっちゃらだと見せつけたかった。女の意地である。


「同伴者も大丈夫ですから、どなたかご一緒でも」
「おい、恵麻」


唯斗に洋服を引っ張られてもなんのその。恵麻は上品な笑顔を崩さない。
〝一緒に来るような人なんていないでしょう〟と言われているようで胸がじくじくと疼く。とても嫌な鈍痛だ。