「久しぶりだね」
笑顔を作り込みすぎたか頬が引き攣る。沈黙が怖くて、聞かれてもいないのに「制服を返しにきたの」と続けた。
「そうか……」
ぎこちなく目を逸らした唯斗とは対照的に、恵麻はじっと七緒を見つめ返す。
色白で垂れがちの大きな目をした恵麻は、相変わらずかわいらしい。
彼女と初めて会ったのは、七緒が講師を務める初心者向けの料理教室だった。父親が製薬会社の取締役を務めるお嬢様で、花嫁修業のためだと言っていた。
明るく天真爛漫なのは育ちの良さなのか、七緒とすぐに打ち解け、教室だけでなくプライベートでも会うようになるのにそう時間はかからなかったように思う。ふたつ年上の七緒を姉のように慕い、七緒自身もそんな恵麻に妹に対するように接していた。
恵麻が七緒のヘアスタイルや洋服を真似しはじめ、バッグや小物なども同じ物を持つようになったのはいつの頃だったか。教室にいる同僚たちからも『本物の姉妹みたいね』と言われるようになった。



