生徒である恵麻と仲良く同伴出社なのか、それとも唯斗のお昼休憩に合わせて恵麻が料理教室へ来たのかはわからない。唯斗は火曜日に公休をとっていたため、その日を狙ってきたのに鉢合わせするなんて、七緒はよくよく運が尽きているみたいだ。
とっさに踵を返そうとしたが、七緒が立っているのは内側。つまり逃げ場はない。
唯斗はハッとしたように目を見開き、その隣で恵麻は驚いたように口元に手をあてた。
見なかったふりをして立ち去ろう。
そう考えてドアを押して通路に出る。目を逸らしたまま歩きだそうとしたら、背中に声を掛けられた。
「七緒」
どれくらいぶりに彼に名前を呼ばれただろう。唯斗に別れを告げたとき以来だから二カ月は経っている。
退職するまでの間は彼を徹底的に避け、シフトを組み替えてもらったため顔を合わせることもなかった。もう二度と会わないだろうと思っていたのに、なぜ最後の最後にこうして鉢合わせするのか。
それもふたり揃ったパターンなんてもっとも酷だ。彼を好きな気持ちはとっくに整理したが、惨めだし最悪すぎて言葉も出ない。
でもいつまでも引きずっていると思われるのは癪。口角を上げ、目尻に皺ができるほど目を細めてから振り返った。



