敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~


江梨子はすぐ近くにある応接室をチラッと見て、七緒をそこへ誘った。


「講師の中でも優秀な久世さんの退職は、本当に残念でならないの」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


向かい合って座った江梨子に頭を下げる。
七緒の退職理由は彼女の耳にも入っており、べつの教室への異動も含めて何度か引き止めてもらったが、七緒は一環して首を横に振り続けた。


「次の仕事はもう決まってるの?」
「いえ、まだ……。そろそろ探そうかとは思っているのですが」
「そう」


江梨子は軽く頷きながら七緒を優しく見つめた。


「……お体のほうはいかがですか?」
「ええ、大丈夫よ。いつもお気遣いありがとうね」


江梨子は数年前に狭心症を患っているため、体調管理には人一倍気を使っている。若い頃に一度結婚経験があるらしいが、現在はひとり暮らしをしているらしい。