「遅くなりましたが、制服を返しにきました」
紙袋を持ち上げると、彼女は〝あぁ〟と声にならない息を漏らした。
「では社長をお呼びします」
「あっ、いいんです。お忙しいでしょうから。こちらは皆さんでどうぞ」
制服と一緒に焼き菓子の入った袋をカウンターに置く。ここに足を運んだ事実だけ伝われば義理は果たしただろう。
ところがちょうどそのとき、社長の若林江梨子が現れた。タイミングがいいのか悪いのか。
「社長……」
「久世さん」
驚いた顔がすぐに優しいものに変わる。
パンツスーツを華麗に着こなす江梨子は、五十代後半とは思えないほど若々しく美しい女性である。ワンレングスのボブはいかにもできるキャリアウーマン。ひとりでグランビューレを大きく成長させた凄腕女社長だ。
「少しお時間ある?」



