今時の七十代は若くて元気とよく聞くが、なにがあるかわからない年代でもある。
「海外に行くわけでもあるまいし。同じ都内なんだから、いつだって顔を見られるでしょう」
「それはそうだけど……」
「どのみち結婚したらここは出て行くんだから、それが少し早くなるだけ」
孝枝の中で七緒たちの結婚が決定事項になっているのが怖い。お見合いを回避してホッとしたはずが、かえって結婚から逃げられなくなっていないだろうか。
「彼は加賀谷医療センターを背負って立つ人間よ。七緒がしっかり聖さんを支えてあげなさい」
「……はい」
孝枝に鼓舞され、頷きつつ返した。
どんどんドツボにはまっていく気がしてならない。やけに乗り気の祖父母たちをどう攻略したものかと考えを巡らせるが、脳の回路は油切れを起こした模様。そのうちギィギィと音を立ててピタッと止まってしまった。
(でも聖さんはきっと同居なんてごめんだって言うよね)
そもそも聖は結婚したくないのだから同居だって同じ。
自分をそう納得させて元気づけ、桜餅を平らげた。



