「はっきり言わないでください。こう見えて結構気にしているんです」
彼を見て異議を唱える。
失恋したうえ好きな仕事を辞めた悔しさと、辞めなくてもよかったのではないかという後悔の狭間で、この一カ月は塞ぎ込んでいた。
失業保険をもらえるとはいえ、次の仕事が決まるまで祖母の年金頼りの生活に対する罪悪感もある。
「なにか理由があって辞めたのなら後ろめたさを感じる必要はない」
「……え?」
「その様子だと、辞めなければならない理由があったんだろう? だとすれば今、無職なのは正しい選択。心や体の休息も大切だ」
予想外の言葉を掛けられたため、聖の横顔を見つめる。
これまで『辞めなくてもよかったのに』と言われるのが常だった。逃げる必要はなかったのにと。退職を選んだのを肯定されたのは初めてだ。
先に進めないもどかしさで、どうしようと焦るばかり。次の仕事を探さなくてはならないのに心も体も重く、いっこうにままならなかった。
聖は七緒を元気づけようと意識したわけではないだろうが、はじめて肯定的な意見を聞き、少なからず心が軽くなる。



