恋愛小説のような世界に浸って、夢見るときはたしかにある。でも問題はそこではない。
「そもそも聖さんがおかしな出会い方にするから」
同じ本を手に取るなんて、ベタすぎて現実世界では逆にお目にかからないシチュエーションではないか。
「自殺と勘違いして抱きつかれたって正直に話したほうがよかった?」
「抱きついてはいません」
「そうだった? ともかく命を救ってくれてありがとう。一生恩に着るよ」
一本調子の口調はおもしろがっている証拠。あんな場所で手すりを掴んでジャンプしたら勘違いして当然だ。
本の選択といい、聖とは意見が合わないらしい。
「話を戻すけど、七緒の職業は?」
「私の職業、ですか……」
二十六歳なら働いていると考えて当然だが、それを聞かれるととてもつらい。
「……じつは仕事を辞めたばかりで」
「無職?」



