幼い頃に母親との別れがあったため、無意識に彼女の家庭的な部分に惹かれたのか。具体的になにが引き金になったのかはわからない。そもそも恋なんてそんなものではないだろうか。

好きになるのに理由はない。無意識に心が求めるものに理由を探すのは無意味だ。

七緒が好き。だから一緒にいたい。

聖にとって、その感情こそがこれまでに抱いたことのない唯一のものだった。

一生会うことはないだろうと諦めていた母親が七緒のごく近くにいたと知ったとき、柄にもなく運命だと思ったのはここだけの秘密だ。


「七緒、そろそろ起きたほうがいいんじゃないか」
「……ん」


聖の声にわずかに反応して瞼がピクリと動く。


「撮影に遅刻しても知らないぞ」


七緒がインターネットの料理番組でデビューを飾ったのは二カ月前。もともと聖の母、江梨子の紹介で出演が決まったらしいが、一週間に一度の番組はじわじわと人気を伸ばし、視聴者からの評判も上々だという。