敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~


そばにあった椅子を引っ張り、ベッドのそばで腰を下ろした。


「おかげさまでずっといいわ。……もしかしたら久世さんの耳にはもう入っているかもしれないけど」


笑みを浮かべていた江梨子が唐突に真顔になる。すぐになんの話か察しはついた。


「加賀谷先生は私の息子なの。三十年近く前に離婚した夫との」
「聖さんから聞きました。……私、今、聖さんとお付き合いをさせていただいていて」
「そうなんですってね。驚いたわ」


江梨子が感慨深げに七緒を見つめる。


「もう何十年も昔のことだし言い訳にしかならないけど、私の話、聞いてくれるかしら」


そう断った江梨子に七緒は頷いた。

その昔、江梨子は聖の父親とお見合い結婚で結ばれたらしい。はじまりは相思相愛でなかったが、結婚してから少しずつ育んでいた愛で聖が生まれた。
しかし、江梨子には幼い頃から料理人になる夢があり、聖が生まれてからもその夢を諦めきれずにいたという。