つまり、七緒が江梨子を紹介したときに初めて母親だとわかったのだろう。
「料理教室を経営しているのは知っていたんですか?」
聖がゆっくり首を横に振る。
「消息はまったく掴んでいなかった。祖父や、亡くなった父は知っていたのかもしれないけど」
「そうだったんですね」
「まさか七緒が勤めていた会社の社長だったとはね」
驚きを通り越して、縁の不思議さをしみじみ痛感する。
「いつか会えたとしても、置いていかれた恨みごとをぶつけるのが関の山だと思っていたのに、やっぱり違うものだな。捨てられたことなんて忘れて助けるのに必死だった」
「聖さん……」
ホテルで無我夢中で蘇生を試みる聖を思い返して胸が熱くなる。
困惑気味の横顔になんと声を掛けたらいいのかわからず、七緒はただそっと彼の手を握りしめた。



