「苦しいのは胸ですか?」
しかし江梨子は冷や汗を垂らしはじめ、呼吸を荒くするばかり。周りにいたほかのお客も騒然としはじめた。
「横にさせよう」
聖は江梨子を抱き上げ、ラウンジ内を見渡した。騒ぎに気づいた店員が「ソファならこちらに」と誘導し、江梨子をそこに寝かせる。ブラウスのボタンをひとつだけ外し、できるだけ呼吸が楽になるようにした。
「聖さん、社長は以前、狭心症を患ったことがあるんです」
「狭心症を?」
「はい、二年くらい前だったと思います」
「なにか内服していなかったか?」
聖に尋ねられたが、七緒はそこまで把握していない。
「ごめんなさい、わからないです」
「とにかく救急車を呼ぼう」
聖に言われて、すぐさまスマートフォンをバッグから取り出した。119をプッシュして、出動を要請する。



