「だったら、このまま偽りの恋人でいればいい。お互いに好都合だ」
聖はクルーズ船のデッキで七緒に恋人のふりを頼んだときと同じように、ナイスアイデアと言いたげだった。
裏切られるのなら恋人はいらない。結婚もしなくていい。
そう考える七緒にとって、聖の提案は願ったり叶ったり。なにしろふたりの目的は〝結婚&お見合い回避〟と同じだから。
「わかりました。そうします」
「キミは物わかりがいいね」
「……なんか言い方がちょっと」
バカにされていると感じたのは気のせいだろうか。医者だから七緒よりずっと優秀なのは認めるが。こっぴどく振られた副作用で七緒が卑屈になっている部分もあるかもしれない。
「それは悪かった。じゃあ聞き分けがいい?」
「子ども扱いされてるみたいです」
「道理をわきまえた? それとも理解が早い?」
「……もういいです」
次々言い方を変えて楽しそうにする聖を止める。言葉を変えても意味はほぼ同じだ。



