聖に合わせて七緒も〝大丈夫です〟という意味の微笑みを浮かべると、コンシェルジュは「ではお手数をおかけして申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします」と頭を下げて立ち去っていった。
「では行きましょうか、フィアンセさん」
ふざけて言いながら聖はカートのハンドルを掴み、左腕をくの字にして七緒のほうに突き出す。
(もしかして腕を組もうって意味かな)
仕草からしてそうだろう。
「その必要はあるでしょうか」
「さっきの俺の言葉、忘れた? 七緒は俺の婚約者だろう。そう見えるようにしないと偽装だとばれるぞ」
それでは一緒に暮らす意味の半分はなくなる。七緒は大人しく彼に自分の腕を絡めた。
腕を組むのは久しぶり。距離が一気に縮まり、なんとも恥ずかしい。
どことなく満足そうに彼の口角が上がる。この状況を楽しんでいるように見えた。
駐車場からエレベーターで一階まで上がり、いったんエントランスロビーへ出る。高い天井は解放感抜群で、ライトグレーの床が艶めいている。



