敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~


助手席から降りると、聖はすかさず七緒の肩を引き寄せた。
一瞬体が強張ったが、すぐ意識的に力を抜く。車から離れるときの聖の言葉の意味は、おそらく恋人として振る舞うようにという意味だっただろうから。


「こちらが昨日お話しした女性です」
「ご婚約者の久世七緒様ですね。加賀谷様から伺っております」


同居するにあたり、聖が事前に話を通しておいたみたいだ。セキュリティや管理がしっかりした高級マンションはそういうものなのかもしれない。


「久世と申します。今日からよろしくお願いします」
「なにかございましたら遠慮なく私どもにお申しつけくださいませ」
「ありがとうございます」


形式ばった挨拶を交わし、早速車からカートにダンボールとキャリーバッグを積み替える。コンシェルジュがそのカートを押そうとしたが、聖はそれを断った。


「部屋までは自分たちで運べますから」
「ですが」
「カートは後ほどお返しにあがります」