さらに不平を口にする聖を見て、ふふっと笑みが零れる。気づけば孝枝との別れに感傷的になっていたのが嘘のように心が軽くなっていた。
三十分後、車はライトグレーの外観をした大きな建物の地下へ吸い込まれていく。そこは地下駐車場で、聖の車のような高級車が何台も止まっていた。
「ちょっとここで待ってて。あ、それからキミは俺の婚約者だから」
聖はそう言い置き、助手席に七緒を置いて車から離れた。
(どこへ行ったの……?)
地下とはいえ照明で明るい駐車場のため怖くはないが、慣れない場所でひとりになるのは心細い。
車の中でじっと待ちつつフロントガラスの向こうに広がる光景に目を向ける。低層マンションで戸数が少ないのか、駐車してある車はそれほど多くない。照明に乱反射して、どの高級車もピカピカだ。
ほどなくして戻った聖は、カートを押して歩く黒いスーツ姿の男性が一緒だった。
高級マンションにはホテルのようにコンシェルジュがいると聞くから、彼もその手の人間だろう。三十代半ばだろうか、押しているのはダンボールを載せるためのカートに違いない。



