一瞬のことだった。


 白く光った切っ先、瞠目した黒崎くん。目元をかばおうとした手は間にあわず、宙を切ったまま大きくわなないた。


「……っ……ぐ……」


 欠けそうなほど噛みしめられた歯。埃まみれの腕がびくびくと、魚のようにはねる。

 数秒遅れで半顔から引き抜かれたナイフは真っ赤に染まっていた。


「あ……」


 動かない。身体も、視線も。


 見た。
 見てしまった。


 冷たく尖った金属が、皮膚を切り裂く瞬間を。肉にめり込み、血管を傷つけていく様を。

 生々しい色が、征一さんの指を伝っている。手の平から手首、袖口へと、滲みながら広がる赤。そして、鼻をつく匂い。


「……あ……ぁ……」


 おそるおそる下げた視界に、顔を押さえる黒崎くんと、目から頬をべったり濡らすおびただしい量の血が見えた時。



 自分のものとも思えない声が、喉を切り裂いた。