それは中島先輩だった。
「え?中島先輩?」
私は目を丸くして言った。
彼女は高校時代に、
仁くんと同じクラスメイトだった中島莉緒。
当時は黒髪だったが、金髪に様変わりし、さらに綺麗になっていた。
「あれ?こんなとこで何してんの?」
中島先輩は微笑みながら、私に手を振り、近づいてきた。
高校時代、絡みは殆どなく、
まともに話すのは初めてかもしれない。
仁くんとの距離がやたら近いっていうことだけで、どれだけ高校時代に嫉妬したことやら。
お互い面識があるわけだから、挨拶だけはしておかないと。
苦手意識強めの中島先輩と話しをするがだんだんとぎこちなくなりだして、緊張していく。
「ちょっと、用事で。先輩こそ何でここに?」
「あッ私?ここ帰り道だから」
中島先輩は家の方角を指さした。
私もさされた方向を見上げ、確認する。
「あぁ〜そうなんですね」
「うん。仕事終わりの坂道はしんどいわ。あっそう言えば結空ちゃんもこっちで就職したんだっけ?」
勉強嫌いな中島先輩は進学はせず、地元の松江市で働いていた。
「そうですそうです」
「そっか。仕事大変だと思うけど無理せずにね」
「ありがとうございます、先輩も」
「うん、ごめんね。引き止めて。じゃあ」
中島先輩は笑顔で私を見つめていた。
あの頃、先輩のように綺麗になりたいと思っていたのが、最近のようで懐かしい。
私も照れ笑いを浮かべながら、中島先輩に手を振った。
「はい、失礼します」
中島先輩も同じく手を振り返し、私の背中を見届ける。
私は長い坂道を下り、バスに乗った。
雲行きが怪しくなり、突如雨が降り出し、濡れる松江の街並み。
まるで、私の代わりに泣いてくれているようだった。
また仁くんの居ない生活が始まる。
仁くんに逢ったら変わると思ったのに……
私は憂鬱な気分で一人暮らしを始めたアパートへと帰って行った。
仁くんは今頃、何してるんだろうか。


