私は部活も引退して、松江市内にある携帯販売ショップから内定を貰い、あとは何事もなく卒業するだけ。
そう、私は残りの高校生活を平凡に過ごす。
ただそれだけだった。
だけど、そんな平凡な生活を送っていただけに、まさか私が一個下の男子生徒に好かれるなんて予想だにしなかった。
「先輩いつも可愛いっすね」
お決まりの挨拶。
そうやって、積極果敢に話しかけてくる後輩、城田 然《しろた ぜん》。
なんの躊躇いもなく、自分が私に好意を抱いていることを分かってもらうように接してくる。
ホントたいしたメンタル。
私には今、彼氏がいないとはいえ、仁くんという存在がいる。
私は然くんと程よい距離を保ちながら、恋愛に発展しないよう徹した。
でも、日に日にエスカレートしていく言葉。
「先輩、好きっす!」
気持ちはありがたいけど……
「デートして下さい!」
仁くんと約束してるから……
「俺と付き合って下さい!」
仁くんが好きだから答えはNOだよ……
「じゃあ、結婚して下さい(笑)」
いや、それはもっとNO……
懲りない然くんは私に計、7回は告白している。
「まだあの先輩のこと、忘れることができないんすか?」
私たちの事情も知らない然くんは付き合うことができない私に尋ねる。
「約束してるから、私が卒業したらまた付き合うって」
「まだそんなの信じてるんすか?どうせ今頃、違う女の子と付き合ってますよ。先輩は知らないだけで、俺は先輩を泣かしたりしませんから」
然くんは僻むように私に言った。
仁くんのこと何も知らないくせに悪く言うのは簡単だけど、私はその言葉を許すことができない。
「いや、やめてくれる?仁くんのこと、悪く言うの!私は何を言われようが仁くんを思う気持ちは変わらないから」
「なんでだよ、そいつの何がいんだよ!何で……勝てねんだよ……ッ」
もう何を言おうがこの関係は変わらない。
そう察したのか、然くんは豹変し、立ち去っていく。
これでいんだ。
然くんはこの日を境に私の前に姿を見せなくなった。
仁くんの良さなんて、何も知らない君には分からないよ。
私は仁くんと約束の日に、また逢えることだけを望んでいる。
仁くんが女の子と付き合うわけないじゃん。
私は今でも仁くんのことを信じているから。
そして、私は無事何事もなく卒業した。


