「おかあさん……」
小さい声で私は呟く。
そう、あれが私の……おかあさん。
「え?」
車に乗っている女性が私の母親なんだと知り、仁くんは急いでお辞儀を済ました。
「行かなきゃ。バイバイ」
私は別れの挨拶を簡単に済ませると、
急いで車の後部座席に乗り込んだ。
「え?あ!うん」
仁くんはよそよそしい私たちの感じに疑問を覚えながらも、見えなくなるまで私に手を振り続けてくれている。
母親という木栖千里《きすみ ちさと》は、
どう見ても三十代前半にしか見えない顔立ち。
仁くんから見て、とても若く綺麗に見えたに違いない。
車内では、重苦しい空気が流れ……


