〔スマホの着信音♪♪♪〕
私はスマホの着信音に気付き、ズボンのポッケからスマホを取り出した。
美優からだ。なんだろ?
「もしもし、結空今どこ?まだ乗ってないよね?!今さっきさァ、ポーチくんが来て結空のこと探してたよォ!!!」
美優は受話器から漏れ出すぐらいの声量で慌ただしく私に伝える。
「えッ?何?まだバス停だけど、ポーチくん?……ッ、えッ?もしかして仁くん?」
私は普段、頭の回転が悪い方なのだが、今日はヤケに調子がいい。
ポーチくんのことを仁くんのことだと、すぐさま解釈することができた。
「そうそう、結空探し回ってたよ!めっちゃ慌てた様子だったから何かあったのかなと思って」
「え、何で?」
「知らなーーい。でも、結空に大事な用事でもあんじゃない?じゃないと、あんな慌てた様子で来ないし!」
「なんだろ……でも私……」
仁くんに会うのが怖かった。
せっかく気持ちを整理して、想いを押し殺していたのに。
また仁くんに会ったら、想いが溢れ出して、好きが止まんなくなっちゃいそう。
目の前にバスが止まり、続々と京都行きのバスに並んでいた人たちが乗客していく。
「え?会わずに京都行くつもり?」
「だって……どおしよ、分かんない」
今更、会ったって仁くんには彼女がいるわけだし、それに目の前に京都行きのバスが来ているわけであって、今まさに究極の選択を迫られ、ソワソワしている。
「会わなかったら、後悔すると思うけどなぁ」
「……ッ、でも……」
「あ、もォーーッ、でも何よ?もしかして会わない選択肢でもあるわけ?いやいや、ふざけんな!あんたには会うの一択しかないでしょ!」
美優は怒り口調で私を説得する。
会わないという選択肢はない。
あれ?
私、何に怯えてるんだっけ?
仁くんに会うの?
忘れようとしているのに、会ったら気持ちが変わりそうだから?
あれ?
そもそも何で仁くんのこと大好きでいちゃいけないの?
ダメだ。
私、好きな気持ちに嘘なんてつけないや。
私にかけられた制限が一気になくなり、私の心が晴れやかになるのが分かった。
「美優ありがと。今度、何か奢るわ!」
「ふふ、よしッ!!!絶対に絶対に絶対に会って来なッ!会わなかったら2回奢れ。結空、頑張ってッ!!」
京都行きのバスは私を乗せず、走り出した。
私は横目でそれを確認し、電話を切る。
仁くんが居そうな場所、私がここに居るんじゃないかと思って仁くんが探しそうな場所、ここしかない。
それは……


