忘れられない恋

「ごめん……もっと早く言ってあげてたら」


中島さんは涙目になりながら謝る。



「いや、中島さんは悪くないよ。教えてくれてありがと」



俺は感謝する。



「ってことはすれ違いってことか」



海斗は呟いた。



「俺さ……結空に嘘ついたんだよね。俺も行っていないとか今彼女いるとか。自分のことをカッコ悪く見せないように……結空の気持ちも考えずに。ホント、バカだよね?」


俺の気持ちは声も届かない奥底の深淵のように沈んでいた。



「おい、何してんだよ!だったら早く行ってこいよ」



海斗は両手で机を叩くと、素早く立ち上がった。



「えッ?」


俺は海斗の行動に愕然とし、我に返る。



「ここにいたってしょうがねえだろ?早く会って自分の気持ちを正直に伝えて来いって!まだ少しでも結空ちゃんのことが好きなんだろ?」



好き?



海斗の言葉で、結空に対する気持ちが揺れ動く。



「えッ?それは……ッ……」



「行って来いよ!お前が幸せそうにしてないと、俺もつまんねえからさ」



俺はどうしたいんだ?





結空との幸せだった日々の思い出が頭の中でフラッシュバックする。



ボールを拾い結空と初めて話した記憶。

プロポーズ丘公園で結空に告白した記憶。

お互いの呼び方が変わった記憶。

カラオケで一緒に歌った記憶。

自転車の後ろに結空を乗せて帰った記憶。

文化祭やクリスマスなどのイベントを一緒に過ごした記憶。

結空の満面の笑顔。



頭の中に広がる結空との思い出。



ダメだ、嘘つけねえ……







俺、結空が今でも好きだわ。




「……ッ、海斗ありがと!俺、結空のこと好きだわ」



海斗の真剣な態度に心を打たれ、自分の本当の気持ちを知ことができた。



「一ノ瀬くん、頑張れ!」



中島さんも俺の背中を押してくれる。


お店の壁掛け時計で時刻を確認すると午後7時半。



まだ間に合う。



「ちょっと行ってくるわ!」


まだ結空は職場にいるだろう。


俺はそう思い、急いでお店を飛び出した。