忘れられない恋

ドアの向こうから栞の泣き声が聞こえてくる。


俺は両手で耳を塞いだ。



本当に大好きだった……のに。



俺は人生で初めてだろう。


こんなに大きな声で怒ったのは。


少し喉が痛くて複雑な心境だった。



母親に言われた言葉を思い出す。



『仁は反抗期がまったくなかったから育てやすかった』



親に反抗したこともないし、


結空や友達と喧嘩したこともなかったっけ。



「キレるって……こんな気分なんだ」



俺は口ずさみ、一粒の涙が流れる。







ドン、ドンッ!ドン!







何度も何度も近くの壁を叩いた。



何度も何度も……








自分の手が赤くなるまで。



また一人ぼっち。


もう時間は戻せない。



楽しかった栞との日々。



壊れてしまったプリザーブドフラワーの置き時計のように、俺たちの恋の秒針は止まった。





その後、栞は次の日もまた、

その次の日も俺の家に押し掛ける。



だが、俺は来る度に栞を追い返した。