「じゃあさ、結空ちんはカラオケとか行ったりすんの?」
「私ですか?行きます行きます。ヒトカラですけど」
「え!マジで?じゃあさ、今度一緒に行かね?カラオケ俺も好きだからさ」
彼は私がよくカラオケに行くことを知り、テンション爆上げ。
自然な流れで私を誘い出した。
「え?」
ついさっき会ったばかりの人から誘われ、困惑する。
これって、いわゆるナンパってやつ?
私は店員で、あなたはお客様……
彼についてあまり知らない私は、一緒に行くことを躊躇った。
「あれ?ダメかな?」
「えっと、その……私、人見知りなんで、ちょっと……」
何とか行かないで済むように、適当な嘘でその場を凌ごうとしていた。
私はいつだって自分から一歩踏み出そうとしない。
恋に臆病でガードをすぐ固めてしまう。
答えの見つからない宝探しをいつまでも続けていくつもりなのだろうか、
変われない性格にうんざりしていた。
「そんなの大丈夫だって!自分が人見知りだってこと俺が忘れさしてあげるからさ」
「いやーー、でも……」
彼は満面の笑みで私のガードを少しばかり柔らげてくれるが、私はまだ渋る。
「はい!じゃあ、これ!もし心変わりしたら連絡してよ」
彼はLINEのIDを紙に書いて渡してきた。
「え?」
「俺はいつでも大丈夫だからさ。カラオケ行きたくなったらLINEちょーだい。連絡待ってるから!」
彼の優しい眼差しに私の心は揺れ動いている。
これって、一歩踏み出すチャンス?
不安だった気持ちが小さく和らいでいく。
きっと、この人なら大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、私は紙を受け取った。
「はい」
私が彼の連絡先が書かれた紙を受け取ったことを確認すると、彼は笑顔で帰って行った。
正直言って嬉しかったよ。
男性との出会いなんて滅多にないわけだし、新しい恋に発展するチャンスなんて、さらにない。
この出会いをムダにはしてはいけないと思った。


