「離し、て。」

「……悪いが、それはできない。」

 後ろから抱きしめられたと同時に、静流が情けなく私の首筋に顔を埋めてきて。

「もう俺は、どうすればいいのか分からないんだ……っ。香が好きすぎて、理性が制御できなくて……香を手放したくないと思って、怖くなって……っ。」

 ……その時私は、初めて静流の本心を聞いた気がする。

 普段無口な静流は、感情表現が苦手らしい。

 吐き出し口も分からず、溜め込んでしまったのかもしれない。

 はぁ……やっぱり静流には、調子が狂わされる。

「静流は、私が好きなんだよね。」

「……あぁ。」

「私も、好きって気持ちをどうすればいいのか分からない……けど、静流が居なきゃ私はダメだと思う。」

 だって静流は、私の日常の中の非日常だから。

 非日常がなきゃ、面白くない。

 そしてそれが欠けたら……私はきっと、ダメになっていく。

「大好きだよ、静流。私と付き合ってくれる……?」

「……まさか、香から言ってくれるなんて。」

「で、返事は?」