俺は香を抱きしめたまま、香の頭をさらっと撫でる。

 香はどうやら、意識を失ってしまったらしい。俺の腕の中でぐったりしている。

 そしてその表情は……とても、苦しそうだ。

 息遣いも荒いし、顔は真っ青。

 その頬は赤く腫れていて、言いようのない怒りに支配される。

「な、何で西条君が居るのっ……? もうすぐ授業始まっちゃうよ……?」

 ……だが、火に油を注ぐように俺の耳にそんな言葉が入ってくる。

 何で……か。

 ここに来たのは偶然。今の俺のクラスは、今日は3組と合同授業だ。

 なんでも、用意が面倒だから一気に授業したほうが楽なんだと。

 でも俺は担任に言われ、化学準備室に用意されている用具を取りに行く途中だった。

 その時に、香の声が飛んできたんだ。

『だ、だったら私のことなんて――』

『折羽さんが居なければいいの! 前からそれは思ってたし、それにわたし見ちゃったんだよ。屋上で西条君が折羽さんのこと押し倒してるの。』

 苦しそうな、振り絞ったような声。

 それに続いて女子の大声が聞こえたから、反射的に来てしまった。