セシリーは初めてで驚いたが、周囲が落ち着いているところをみるとこれも演出のようだ。軽妙な音楽と共に、群衆の前にレオリンとフレアが進みでて挨拶を述べた。

「本日は皆様、ようこそお集まりいただきました。進行役を務めさせていただく本国の王太子のレオリン・エイク・ファーリスデルと申します。隣は――」
「婚約者であり、太陽の聖女でもあるフレア・マールシルトでございます。皆様、どうぞよしなに」

 薄明りの中、給仕が静かに参列者にシャンパン入りのグラスを手渡してゆき、挨拶を終えたふたりはテンポよく説明を続けてゆく。

「この時計塔は約五百年前、ガレイタムとの境にあったある王国が史上まれにみる大きな災害で消滅した時、同じように被害に晒された両国が手を合わせてそれを乗り切ったことを記念され、その際に多くの人々を救ったとされる聖女を奉るために建てられました。それ以降年に二度この場所では、絶えることなく歴史を積み上げられたことを祝うため、節刻みの舞踏会が執り行われて参りました」
(なるほど、国としてはそういう感じになってるんだ……)

 民衆に真実を秘するための作り話だが、なかなかどうしてこうして聞くと、胸に迫るものがある。話し手は切り替わり、マール嬢のいつもの明朗な声とは違う凛とした声が会場を包む。