演奏が終わると、彼はすっと笛から口を離し、拍手するセシリーを見つめた。

「どうだった?」
「うん……とっても素敵だったけど、少し寂しい感じのする曲だよね。なんていう曲なの?」
「『星の砂』っていうんだよ……。手に入らないものを想って作られた、そんな曲」
「手に入らないものかぁ……」
 
 セシリーにも望もうと、決して手に入らないものはいくらでもある。俗人的な感覚だと、大金や地位、才能などがそうだし……他にも例えば、レミュールやリュアンのような美貌とか、ラケルの天性の明るさ、キースのような明晰な頭脳……その人をその人たらしめているような特別なものはどう足搔いても望めない。

「一杯あるよね……そんなの。悔しいけど、でも……それは仕方ないし、誰かになったりはできないけど……それに向かって努力することはできるじゃない。そうして頑張れば……なにかが――」
「違うんだよ……!」

 彼は首を振り……俯きながら、絞り出したような声で言った。

「欲しいのは紛い物じゃない……。ひとつしかない、それそのものなんだ。他のなにかじゃ駄目なんだ……」