「――サラは、命を愛する人だった。どこへ行っても彼女の周りでは、動物も人も笑顔を絶やさなかった。そんな彼女に、宮廷内での形式だけを繕った冷たいやりとりはさぞ苦痛だったんだろう。国家が彼女に求めていたのはその力だけで、そこに心の交わりはなかったんだから」
「お父様の家の方は、どうだったの?」
「ああ……こちらもまたひどいものだったよ。貧しい家で一番下に生まれた私に酒浸りの父は強く当たり……母や他の家族は無関心だった。たまたまそんな私を従者して抱えてくれた人物のおかげで騎士として私が成り上がり、国に尽くす間も……彼らは当然のように家に送った財を食い潰すばかりの暮らしを送っていたようだし……。彼らとは王都を出てそれきりで、もし健在だっとしても顔も見たくない」
 
 オーギュストが他人に関してここまでの嫌悪感を示すのは珍しい。きっと実の家族であるからこそ、腹を据えかねるものがあったのだろう。続く言葉も苦渋に塗れ、彼が王都を離れた時の気持ちが、セシリーにも伝わるようだった。

「成長して強くなり、大きな力を制御できるようになっても、他人の眼差しまでは左右できない。力が大きければ大きいほど、嫉妬や恐怖、羨望、期待……周囲が勝手に作り出した想像が、その人を追い詰めていまう。本人すら、自分が一体どんな人間だったのかが、わからなくなってしまうくらいに……」

 オーギュストもサラも、ずっと本当の自分を見てくれる人を探していたのだろうか……。