リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

「ありがとうございました」

 リリィが礼を言うと男性がこちらに顔を向けた。

「勇敢と無謀はまったくの別物だ」
「なっ!」
「あんたみたいな世間知らずのお嬢様がガラの悪い男に向かって行くと普通はどうなるか。育ちがよすぎて知らないのか」

 ぐっと言葉に詰まった。
 知らないわけはない。前世はそれなりに経験値を積んできた。どれだけ危険なことだったかなんて自分でもわかっている。震える手をぎゅっと握り締めたとき、「ああ!」と悲壮な声が聞こえてきた。

「全然足んねーじゃねぇか! あのくそジジイ!」

 地面に散らばったお金を拾い集めた少年が叫ぶ。

「いくらでしたの?」
「三十リュカス」

 少年の手の中にはどう見ても十リュカスほどしかない。

「殴られなかっただけでもよしとしたらどうだ。けがをしたら元も子もない」
「母ちゃんに精がつくもの食べさせてやりたかったのに……」

 今にも泣き出しそうな顔で小銭を握り締めた少年に、リリィははっとした。

「そうだわ!」

 パチンと手を合わせる。

「あなた、ちょっとわたくしの手伝いをしてくださらない?」
「は?」
「あの坂の上までわたくしの荷物を運んでくださいな。思ったより買い過ぎて困っておりましたの」
「やだね。なんで俺が」

 少年がくるりと背を向ける。さっきの男に代金を踏み倒されかけたことが尾を引いているのだろう。背中に金持ちなんか信用できないと書いてある。