リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

「それにしても少し買い過ぎたかしら」

 両手で抱えた紙袋がずしりと重い。野菜の種を買いに来たはずなのに、どうしてこんなに重たくなってしまったのだろう。
 次はいつひとりで来られるかわからないと思ったら、ついあれもこれもと欲張ってしまった。荷物を抱えて坂道を上らないと屋敷に帰れないことをすっかり失念していた。

 やっぱり馬車で来ればよかったかしら。
 田舎の街にあんな立派な馬車で来たら、一発で伯爵令嬢だと知れるだろう。こんな辺境の地まで悪女のうわさは届いていないとは思うが、できることなら静かに暮らしたい。

「よいしょっ」と令嬢らしからぬ掛け声を口にしながら荷物を抱え直したとき、道の反対側から騒ぐ声が聞こえてきた。見ると、十歳くらいの男の子の胸ぐらを身なりのいい男がつかんでいる。考えるより早くリリィの体が動いた。

「おやめなさい!」

 少年の胸ぐらをつかんだまま男がこちらに顔を向けた。

「ああ? なんだおまえは」
「子ども相手に大人の男性がすることじゃありませんわ」
「関係ないやつぁ黙ってろ。こいつは俺の金を取ろうとしたんだ」
「違う! そっちが靴磨きの代金を払わなかったんじゃないか!」
「うるさい! 磨き方がなってないやつに金なんか払えるか」
「ちゃんと磨いたじゃないか! どうせ最初からぼったくるつもりだったんだろ! 金持ちのくせにケチなおっさんだな!」
「なんだとぉ!」

 男が腕を振り上げた。少年に振り下ろそうとする瞬間、リリィは反射的にその腕に飛びついた。