リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

 それなのにふたを開けてみれば伯爵令嬢(このざま)だ。

 物心つく前に決められた許嫁が素行不良や派手な異性関係でうわさの絶えない第四王子とくれば、平穏な暮らしなど永遠に叶えられそうにない。
 女好きの第四王子のせいで逆恨みを買う可能性が高い。今度は刺されたり毒を盛られたりするかもしれない。
 あんな恐ろしい思いはもうたくさんだ。
 なんとしても回避しなければ。

 そう思ったリリィは、第四王子から婚約破棄してもらえるよう努力を重ねた。
 ダンスでは王子の足を踏みまくり、事あるごとにわがままを言った。第四王子が気にしている背の低さを無神経に話題にしてみたり、宝石やドレスなど贅沢三昧もアピールした。

 第四王子がうんざりした表情をし始めた頃、顔見知りの中から王子の好きそうなタイプの令嬢をそれとなく引き合わせた。ほどなくして二人は恋仲になった。

 ここまで来たらあとは〝王子の心変わりに心を痛めながらも、ふたりの幸せを願って自ら身を引く〟だけだ。
 田舎でのスローライフへの夢が膨らませながら、社交界から去る頃合いを見計らっていたところに、不測の事態が起こった。リリィを許嫁の座から引き下ろそうと、相手の令嬢がありもしない悪行を王子に吹き込んだのだ。鵜呑みにした王子は怒り、婚約解消をした上に恋人から聞いたことをそのまま宮廷で吹聴した。

『リリィ=ブランシュ・ル・ベルナールは稀代の悪女である』

 根も葉もないうわさは尾ひれをつけて瞬く間に王都中に広まり、リリィは辺境の山すそにある伯爵家の別邸へと身を寄せることになった。

「まあ、色々あったけど、終わりよければすべてよしですわ」

 弾むように歩きながらひとり言ちる。

 社交会は嫉妬や陰謀が渦巻いていて、合コンより何十倍も難易度が高かった。
 補正下着よりもコルセットの方が苦しく、大仰なドレスは重たくて身動きが取りづらい。
 身についたことといえば、裾を踏まれるのを察知してそれとなくかわしつつも相手をよろけさせる、そんなどうでもいい技くらいだ。

 悪女? その通りですけどなにか。

 一度死んだアラサー女はそれくらいではへこたれない。
 人間いつ終わりを迎えるかわからないのだから、今度こそ貪欲に夢を叶えていかなければ。