リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

 自分もそろそろ下りて昼食の準備に入ろう。今日のメニューは畑で収穫した夏野菜を使ったパスタだ。書斎にこもる前に麺は打っておいた。
 熱々でもちもちなパスタを想像したせいで、お腹がぐうと音を立てる。

「いやだわ。はしたない」

 誰も聞いていないとわかっていても、なんとなく恥ずかしいものだ。
 きっと農作業をしているふたりは、もっとお腹を空かせて戻ってくるだろう。お腹に溜まりやすいベーコンやソーセージも焼こうかしら。

 夕飯メニューとのバランスを考えながら書斎を出る。階段を半分ほど降りたところで、下から「お嬢様ー!」と言いながらマノンが駆け上がってきた。

「どうしたのそんなに慌てて。はしたないですわよ」

 いつも自分が言われていることを口にしたが、マノンは血相を欠いて口をパクパクしている。

「ぐっ、こ、こう……っ」
「落ち着いて? なにを言っているかわからないわ」
「お客様が!」
「お客様?」

 今まで一度たりとも客なんて来たことがない。いったい誰だろうと首をひねっていると、「とにかく早く!」とマノンにせかされる。
 客間(サロン)のドアを開けた瞬間、リリィは大きく目を見開いた。

 以前と同じように悠々と長い足を組んでソファーに座っているが、外見は以前とは違う。金糸が刺された上衣にそろいのマント。前髪はこれまでとは違い、自然な形で軽く後ろに流されてある。

「元気そうだな」
「アル!」

 しまった、と慌てて手を口に当てる。

「失礼いたしました、アルフレッド皇太子殿下」

 言い直してカーテシーで挨拶をしようとしたら、口を挟まれた。

「堅苦しい挨拶はいい」
「いえ、そういうわけにはいきませ――っ!」

 ソファーの影からなに茶色いものが飛び出してきた。