書き終えた手紙を封筒に入れ封蝋をし、机に置かれたベルを振った。チリンチリンと澄んだ音色が鳴り響いてすぐマノンがやって来た。
「お嬢様、お呼びでしょうか」
「これを出しておいてもらえるかしら?」
「承知いたしました」
手紙を受け取ったマノンが、部屋から出て行った。
リリィが辺境の別邸に居を移してからふた月がたっていた。その間に季節は春から夏に移り変わり、太陽は南の空高くで燦々と輝いている。
からりと乾いた風に前髪を揺らされて顔を上げると、庭が目に入った。三階からは隅の畑までしっかりと見渡すことができる。トマトやナスの木の合間に小さな麦わら帽子がちょこちょこと動き回っていているのが見えた。ジャンだ。少し離れたところでは、大きな麦わら帽子を被った男性が、地面を耕している。
男性はジャンの父親のトマスだ。中流貴族の屋敷に住み込みで働いていることをジャンから聞き、リリィはトマスに手紙を書いて呼び寄せた。
面談で話し合った結果、家族五人全員でこの屋敷に住み込んでもらうことに決まった。
通いで来てもらう方法もあったが、陽が暮れてからリリィとマノンふたりになるのはやはり不安だったのだ。
母親のエマは最初気後れしていたが、少しずつ屋敷のことを覚えていけばいいからと言ってある。もともとマノンとふたり暮らしだったため、大抵のことはどうにでもなる。
正午前まで書斎にこもっていられたのは、料理を請け負ってくれる人がいるからだ。料理が壊滅的に苦手なマノンは、食事の支度中は生後半年の赤子とジャンの九歳の妹の面倒を見ることになっている。



