「リリィ=ブランシュ嬢、私と踊っていただけますか?」
右手を体の前に添えて優雅に腰を折ったアルに、リリィは目をしばたたかせる。
本当にアルなの?
目の前の彼は口調が丁寧なだけでなく、長い前髪はきちんと後ろに流されてあり、服装の乱れもない。見違えるほど立派な〝皇子様〟だ。
「リリィ?」
再度呼びかけられてはっとした。腑抜けている場合ではない。
なにごともなかったかのように、ドレスの裾を持ち上げて腰を落とし、完璧なカーテシーをする。
「わたくしでよろしければ喜んで」
にこりと微笑むとアルはリリィの手を取り、ホールの中央へと向かった。
足を止め背中に手を添えた。息を吸い込みながら背筋を伸ばす。合図などないのに最初の一歩を踏み出すタイミングが自然と伝わってくる。
三拍子のリズムに合わせてステップを踏む。やっぱり今までのどの相手よりも踊りやすい。
ただの雇われ剣士ではない気はしていたけど、よもや帝国の皇太子だったなんて思っても見なかった。
騙された! と地団駄を踏みたい気持ちがステップに出ないようにしなければ。うっかり足を踏んだら大ごとだ。なにせ相手は皇太子なのだから。
「なにを考えてらっしゃるのですか、リリィ=ブランシュ」
小さく尋ねられて視線を上げると新緑の瞳と目があった。くっきりとした二重まぶたが縁取られた切れ長の目に、小さく心臓が跳ねる。
彼の目を見るとなぜかいつもこんなふうに胸が落ち着かなくなる。
だけどそれを相手に気取られるのはなんだか悔しい。まぶたを伏せて「恐れながら」と口にする。
「拙いステップで殿下のおみ足を踏まぬようにと緊張いたしております」
途端、ぷっと小さく吹き出す声がした。
右手を体の前に添えて優雅に腰を折ったアルに、リリィは目をしばたたかせる。
本当にアルなの?
目の前の彼は口調が丁寧なだけでなく、長い前髪はきちんと後ろに流されてあり、服装の乱れもない。見違えるほど立派な〝皇子様〟だ。
「リリィ?」
再度呼びかけられてはっとした。腑抜けている場合ではない。
なにごともなかったかのように、ドレスの裾を持ち上げて腰を落とし、完璧なカーテシーをする。
「わたくしでよろしければ喜んで」
にこりと微笑むとアルはリリィの手を取り、ホールの中央へと向かった。
足を止め背中に手を添えた。息を吸い込みながら背筋を伸ばす。合図などないのに最初の一歩を踏み出すタイミングが自然と伝わってくる。
三拍子のリズムに合わせてステップを踏む。やっぱり今までのどの相手よりも踊りやすい。
ただの雇われ剣士ではない気はしていたけど、よもや帝国の皇太子だったなんて思っても見なかった。
騙された! と地団駄を踏みたい気持ちがステップに出ないようにしなければ。うっかり足を踏んだら大ごとだ。なにせ相手は皇太子なのだから。
「なにを考えてらっしゃるのですか、リリィ=ブランシュ」
小さく尋ねられて視線を上げると新緑の瞳と目があった。くっきりとした二重まぶたが縁取られた切れ長の目に、小さく心臓が跳ねる。
彼の目を見るとなぜかいつもこんなふうに胸が落ち着かなくなる。
だけどそれを相手に気取られるのはなんだか悔しい。まぶたを伏せて「恐れながら」と口にする。
「拙いステップで殿下のおみ足を踏まぬようにと緊張いたしております」
途端、ぷっと小さく吹き出す声がした。



