リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

 一歩踏み出したところで足を止めたアルが振り返った。

「ああそうでした、ジョナス殿。庭園の端にあるガゼボではお声をかけずに失礼いたしました。おふた方が大変仲睦まじそうにしていらっしゃいましたので、かえってお邪魔だろうとご遠慮させていただいたのです」
「それは僕ではありません。今日は一日公務で王都を離れていましたから」
「そうなのですか? 勘違い失礼いたしました。お相手がそちらのご令嬢でしたので、てっきり」
「どういうことだ、イレーヌ」
「ひ、人違いでございます! わたくしではございません」
「おかしいですね。その個性的な装飾のついた下品な赤いドレスなど、他では見たことがありませんが」

 ジョナスは顔色を変え、イレーヌは顔を真っ青にしてカタカタと震え始める。ふたりに向けてアルは優雅に微笑む。

「ああ、すみません。私が勘違いしていたようですね。その令嬢の恋人がジョナス殿だと。でなければ昼間からあのような場所で濃密な……いや、私の口からこれ以上は。そういうわけですので、人違いで失礼いたしました。私達はこれで」

「こっちへ来い」「殿下、なにかの間違いです」と言い争うジョナスとイレーヌに背を向けたところで、高らかにファンファーレが鳴り響いた。国王と王妃のお出ましだ。

 国王が高らかに舞踏会の幕開けを告げると、宮廷楽団がいっせいに曲を奏で始めた。