リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

「そんな流行遅れの地味なドレスしかなかったなんて、おかわいそうに」

 たしかにリリィが身に着けているのは、手持ちの中から選んだ一着なので流行りのものではない。光沢のある深いエメラルドグリーンのシルクタフタが目に留まった瞬間、迷わずこれだと決めた。余計な装飾が施されていない分、大ぶりなエメラルドのネックレスとイヤリングをつけた。洗練された装いは、流行には決して左右されない。

「わたくしにはこれで十分ですわ。流行の先取りと奇抜さは紙一重ですから」

 イレーヌの口もとがピクピクと痙攣する。

「そ、そんなですからエスコートにも断られますのよ!」

 声高に言い切ったイレーヌに、リリィははっとした。もしかしたら彼女がリリィのパートナーを断るように圧力をかけたのかもしれない。第四王子の威光を借りればたやすいことだろう。

「舞踏会にエスコートなしなんて、よく顔を出せましたわね。ああ、なるほど。こちらで新しいお相手をお見繕いになられますのね」

 思わず「ふっ」と笑ってしまった。イレーヌのセリフはさっき自分が頭の中で考えた言葉そのままだ。テンプレすぎる嫌味しか言えないあたりで、底が知れる。

「なにがおかしいんですの!」
「いえ別に」

 じわじわと笑いのツボに刺さり、こらえるのに苦労する。

「あなた、わたくしをバカにしているの⁉」
「決してそんなわけでは。お気に障ったならごめんあそばせ」

 イレーヌが甲高い声を上げたせいで、周りから注目を浴び始めている。
 今回の目的は王妃謁見のみ。ここでイレーヌとやり合ってもなんの得にもならない。相手をしないのが一番だ。

「わたくし、用がありますのでこれで」

 ドレスの端をつまんで礼をし、すばやくその場から離れようとする。