会場はすでに多くの招待客であふれかえっていた。
まばゆいばかりに輝くシャンデリアが、鏡のごとく磨かれた大理石に光の粒をまく。バイオリンやチェロの宮廷楽師たちが軽快な音色を奏でる中、華やかな正装をまとった男女が歓談していた。皆、舞踏会の始まりを待っているのだ。
ひとりで入って来たリリィに気づいた人たちが、ちらちらとこちらを見ながら耳打ちをする。大方『この場によく顔を出せたものね』だの『新たな男を漁りに来たんじゃないの』とでも言っているのだろう。
ひそひそ話をする人たちの方に顔を向け、にこりと優雅に微笑む。気まずそうに視線を逸らされた。
こっそりため息をついて部屋の隅へ移動しようとしたそのとき。
「まあっ! どこのどなたかと思いましたら、リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール伯爵令嬢ではございませんか!」
キーンと頭に刺さるような声に、リリィは心の中で『出た!』とつぶやく。振り向くと、鳥の羽根で飾られた一風変わった真っ赤なドレスを身に着けた女性が立っている。
「イレーヌ嬢、ごぎげんよう」
挨拶をすると、相手は「ふんっ」と鼻息をつく。
「相変わらずすばらしい神経をお持ちでいらっしゃるのね」
「それほどでも」
「褒めておりませんわ!」
目尻を吊り上げた彼女、イレーヌ・ル・クレイモン伯爵令嬢こそが、リリィから第四王子を奪った相手だ。
リリィ自身は〝奪われた〟とは思っていないが、彼女はきっとリリィがそう思っていると信じているだろう。



