リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

 舞踏会への参加を辞退すれば、王家への叛意と見なされてもおかしくない。単身乗り込むことにはさすがのリリィも抵抗があったが、王妃との謁見が終わればすぐに退散する。短時間だからと耐えることにした。

 早く帰りたいわ。
 うっかりつきそうになったため息をのみ込む。

 思い浮かべたのは、今し方後にしたばかりの伯爵邸ではない。
 リリィが王都に戻ると聞いた途端、ジャンは泣きだしそうな顔で『帰ってくるよね』と聞いてきた。種を植える約束をして別れたのがずいぶん前のことに感じてしまう。
 アルとはきちんと別れを惜しめなかったのが心残りだった。帰郷直前の慌ただしさのせいで、『お世話になりました』くらいしか伝えることができなかった。

 近くまで来たときは顔を出してね、くらい言えばよかったかしら。
 二度と会えないかもしれないと思ったら、胸の奥がなぜか鉛を含んだように重たくなる。

「お嬢様、到着いたしました」

 マノンの介添えで馬車から降り、両脇に衛兵の立つ城門を見上げる。
 リリィは静かに深呼吸をした。

「マノン、少しの間待っていてくれる? すぐに戻って参りますわ」

 心配そうに眉を下げたまま、マノンがうなずく。侍女は連れて入れない決まりなのだ。

「では、行ってまいりますわ」
「行ってらっしゃいませ、リリィ=ブランシュお嬢様」

 深々と腰を折ったマノンに見送られながら、リリィは城門をくぐった。