「確かにこれはうまい。伯爵家にはずいぶんと腕のいいシェフがいるんだな」
「いえ、これはシェフが作ったものではなくて……」
リリィは視線をさ迷わせながら言葉を濁したが、すぐさまマノンが得意げに言った。
「これはお嬢様がお作りになったものです」
目を見張ったアルを見て、リリィは苦笑した。驚くのも当然だろう。あるじたる令嬢が自ら料理をするなんて普通有り得ない。もともとは専属の料理人もいたが、悪女のうわさのせいで辞めてしまったのだ。
それを聞いて、リリィはひそかに狂喜乱舞した。
夢は自分で育てた食材を使って好きな料理を作ること。前世では料理はよくやっていたが、畑仕事は都会住まいで無理だった。仕事が忙しくてベランダ栽培もままならず、野菜作りは老後の楽しみに取っておこうと思っていたのだ。老後どころかまさか転生後になるとは。
「たいして難しいものではございませんわ」
アルとジャンに出したのは、フィナンシェだ。プレーンのものと、紅茶生地にレモンのスライスを乗せたものの二種類がある。膨らし粉を使わないレシピのしっとり触感が好きで、前世でもよく作っていた。
そういえばこのレシピは、パティシエの元カレが教えてくれたものだった。
「それはそうと、この屋敷にはえらく人が少ないみたいだが、出払っているのか?」
「いえ……」
なんと説明したらいいのか逡巡していると、マノンが取って代わるように口を開いた。
「この屋敷はこれが通常通りでございます」
マノンは、憤まんやるかたなしといった態度でベルナール伯爵家別邸の現状を語った。
リリィがここにやってくるとわかったときに、料理人と同じく使用人達もほとんどがやめてしまった。残ったのは、掃除洗濯などの下働きをする通いの使用人だけ。広い屋敷にリリィとマノンとふたり暮らし同然なのだ。
「いえ、これはシェフが作ったものではなくて……」
リリィは視線をさ迷わせながら言葉を濁したが、すぐさまマノンが得意げに言った。
「これはお嬢様がお作りになったものです」
目を見張ったアルを見て、リリィは苦笑した。驚くのも当然だろう。あるじたる令嬢が自ら料理をするなんて普通有り得ない。もともとは専属の料理人もいたが、悪女のうわさのせいで辞めてしまったのだ。
それを聞いて、リリィはひそかに狂喜乱舞した。
夢は自分で育てた食材を使って好きな料理を作ること。前世では料理はよくやっていたが、畑仕事は都会住まいで無理だった。仕事が忙しくてベランダ栽培もままならず、野菜作りは老後の楽しみに取っておこうと思っていたのだ。老後どころかまさか転生後になるとは。
「たいして難しいものではございませんわ」
アルとジャンに出したのは、フィナンシェだ。プレーンのものと、紅茶生地にレモンのスライスを乗せたものの二種類がある。膨らし粉を使わないレシピのしっとり触感が好きで、前世でもよく作っていた。
そういえばこのレシピは、パティシエの元カレが教えてくれたものだった。
「それはそうと、この屋敷にはえらく人が少ないみたいだが、出払っているのか?」
「いえ……」
なんと説明したらいいのか逡巡していると、マノンが取って代わるように口を開いた。
「この屋敷はこれが通常通りでございます」
マノンは、憤まんやるかたなしといった態度でベルナール伯爵家別邸の現状を語った。
リリィがここにやってくるとわかったときに、料理人と同じく使用人達もほとんどがやめてしまった。残ったのは、掃除洗濯などの下働きをする通いの使用人だけ。広い屋敷にリリィとマノンとふたり暮らし同然なのだ。



