リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

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「お嬢様、もう二度とおひとりで街まで行かれたりしないでくださいませ。マノンの心臓がいくつあっても足りませんわ」

 マノンはリリィの足に冷水を絞った布を当てながら目を三角に尖らせた

「アルがいなかったらどうなっていたことか」
「ごめんなさい」

 足の捻挫は数日で治まりそうだが、マノンに心配をかけてしまったのは事実だ。
 しゅんとうなだれた後、ちらりと視線だけを上げる。

 斜め前のソファーでは長い足を組み悠々と紅茶を飲んでいるのは、街でリリィを助けてくれた男性アルだ。
 彼が足をくじいたリリィを抱えて坂道の半分近くを歩いてくれた。

『下ろして』
『断る』
『歩けますから』
『日が暮れる』

 そんなやり取りをくり返しながら坂道を三分の一ほど上ったところで、前から馬車がやって来た。

『お嬢様!』

 血相を欠いたマノンが飛び出すように降りてきて、アルに『お嬢様になにを!』と食って掛かったので、慌てて誤解を解いた。詳しいことは屋敷に帰ってから説明するからと、全員で馬車に乗って戻ってきたのだ。

「ねえちゃん、これうまいな!」
 靴磨きの少年ジャンが、出された焼き菓子を頬張りながら言う。屋敷に着くなり腹の虫が大きく鳴いた彼に、軽食を取りながら話をすることにした。

「ねえちゃんじゃございません。お嬢様とお呼びなさい」

 マノンに厳しい口調で言われ、ジャンが肩を竦める。

「リリィでいいわよ、ジャン。お代わりもあるからゆっくりお食べなさいね」

 ジャンは「うん!」と返事をしたそばから夢中で食べ始めた。